language

和多屋別荘

お知らせtopics

イベント イベント

【三服文学賞】第4回受賞作品発表!大賞は伊勢佐木すなおさん『真昼の湯気』

 

.大賞『真昼の湯気』伊勢佐木すなお

実行委員賞『死なない夏を抱く』上村裕香

副島園賞『湯の誉れ~私、立ち寄り湯でして。~』佐野裕貴

日本香堂賞『芳香』天野周

NAKAGO賞『沸いたお酒』獺京

ボンジュール賞『頼くんの「よか」』安能史

優秀賞
『うれしーの、じゃないよ』伊勢佐木すなお
『月を踏む』鳴門タタン
『ナメクジはしょっぱいらしかった』川越隆平
『「ぬ」』金村廣希
『道標』雪中松柏

◆大賞
伊勢佐木すなお
作品名:真昼の湯気
ジャンル:小説

選考委員長 小原嘉元 コメント:
「決めるというか・・・決めなくてもいいことが、わかるんです」という一節に強く惹かれました。私たちは日々、何かを決め、答えを出し、前へ進むことを求められています。しかし、日本の湯の文化には、何も決めず、ただ身を委ねることに意味があり、心身の本来価値を取り戻せる豊かさがあります。そして、記憶が失われても、母が娘を想う心は失われない。「髪の毛、よく拭いてね」という何気ない一言に、人の根源的な愛情が凝縮されているように思いました。1300年続く嬉野温泉に身を置きながら、私が追い求めているのも、こうした目には見えない価値なのかもしれません。何かを得るのではなく、何かを手放すことで、最後に大切なものが残る。湯気の向こうにある人間の美しさと、湯の文化が持つ本質的な価値を、あらためて教えてくれた作品でした。

◆実行委員賞
上村裕香
作品名:死なない夏を抱く
ジャンル:小説

実行委員コメント:
もう二度と戻らない和多屋別荘での一泊二日の母娘の旅。その記憶は、語り手の心のなかに「死なない夏」として抱かれることになる。焼肉を三枚しか食べない母の姿から伝わる身体の衰えや、肉親だからこそ見せてしまうぶっきらぼうな態度から、二人の関係性がより鮮明に見えてくる。また、館内や温泉の具体的な描写と少し皮肉屋な語り手の視線によって、旅の思い出と母への想いを読み手が追体験できるようところになっている。遺影の母の笑顔をみやるたびに、夏の嬉野の風景がパッと浮かび上がる。それを想像すると、少し涙が出そうになる。まさに、三服文学賞に応募いただくにふさわしい作品だ。

◆副島園賞
佐野裕貴
作品名:湯の誉れ~私、立ち寄り湯でして。~
ジャンル:小説

副島園コメント:
温泉を擬人化した視点が大変面白く興味が湧きました。 温泉、温泉地は様々な人間模様がくり広げられていて温泉の湯からの目線という斬新な視点で、それぞれの物語の一片が描かれていた所も良かったです。 また美しい描写の表現で、まだ見ぬ露天風呂を想像したり。 今日もどこかで素敵な物語が紡がれていそうで笑顔が溢れました。

◆日本香堂賞
天野周
作品名:芳香
ジャンル:小説

日本香堂コメント:
感じる香りと時間が経つことの機微が立体的に表現されていて情景が目に浮かぶようでした。日々の記憶と香りが連動する様や、言葉少なですが、交わされる会話にも心にほっと温かみを感じるような内容は、香りのように読んだ方々が癒されるようにも感じました。

◆NAKAGO賞
獺京
作品名:沸いたお酒
ジャンル:小説

NAKAGOコメント:
家族と過ごす何気ない時間の大切さを改めて感じました。夫婦でも親子でも、考え方や価値観は違いますが、お互いを理解し、認め合うことが大切だと思います。仕事に追われる毎日の中では、家族との時間を後回しにしてしまいがちです。だからこそ、妻や子どもたちへの感謝を忘れず、今しかない家族との時間を大切にしていきたいと思いました。

◆ボンジュール賞
安能史
作品名:頼くんの「よか」
ジャンル:小説

ボンジュールコメント:
この作品は温泉上がりに嬉野の畦道を歩いているような清々しさと、少年時代の甘酸っぱい焦燥感や遊び心が感じられました。また丁寧な情景描写のおかげでしょうか、その場にいるような心地よい気分になりました。

◆優秀賞

『うれしーの、じゃないよ』伊勢佐木すなお
コメント:ほど良くくだけた文体と、出てくる言葉ひとつひとつのスピード感がとても爽やかで、一気に文字が頭に流れてくるような文章に驚かされました。嬉野のお茶を物語のメインテーマに据えつつ、題名も含め、駄洒落やユーモアを交えながら後からじんわりと来る悲しみの表現が、死というある種、非現実的な出来事に対する反応としてリアルにも感じました。悲しいけれど、読んでいる顔は少し微笑んでいる。そんな話だと感じました。

『月を踏む』鳴門タタン
コメント:湯に沈んだ橙色の月や、白いシーツの上の手、丸く刈り揃えられた茶畑、竹格子の心電図…など情景描写が巧みで言葉選びにもセンスを感じました。読んでいて状況を思い浮かべやすく、スッと物語に引き込まれていきます。会話のテンポも非常に良く、文字にリズムがありました。老いや死というものをどこか俯瞰し、そこからの余韻を残した終わり方も含め、読む者に「想像させる」文章力が秀逸な作品です。

『ナメクジはしょっぱいらしかった』川越隆平
コメント:他者との関係の中で自分の形を変えてしまう私たちを、温泉に溶けるナメクジとして描く発想に驚きました。特に「自分のために溶けている」という言葉には、とても共感します。誰かに合わせて疲れることもあれば、そうすることで自分が楽になることもある。諦めなのか、自分で望んでいるのか、よく分からないこともあります。抗わず溶けていく心地よさと、自分の形がなくなる怖さ。みんな案外、ナメクジになる日があるのかもしれません。

『 「ぬ」 』金村廣希
コメント:シンプルなタイトルに、突拍子もない、予測できない話の構成。どこかSF作品を読んでいるような不思議な感覚。「ぬ」は、人気のない、意味がない文字なのではなく、むしろ意味をひとつに決められない文字として捉えると、とても魅力的だと思います。主に古語においての「ぬ」は、打消の意味と完了の意味が共存していて、そこから「余白」や「境界」を読み取って膨らんでいく解釈、思考の循環に驚かされました。

『道標』雪中松柏
コメント:母という役割と、本を読むことが好きな一人の自分。その間を行き来する切符が、作者の方にとっては栞だったのだと思いました。本を閉じて子どものもとへ向かうときも、栞を挟んでおけば、また戻ってこられる。何気なく使っているものが、これほどの安心につながることが印象的でした。親になっても、それまでの自分がなくなるわけではない。役割を担う中で、一人の自分に戻るための「道標」が、それぞれにあるのかもしれないと感じました。