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【三服文学賞】受賞作品発表!大賞は依田喫茶さん『釉薬』

大賞『釉薬』 依田喫茶

副島園賞『茶畑のつらなり』 津田詩織

8cacao賞『循環している』 清水美雪

Yohaku賞『茶継ぎの金継ぎうつわ』 ざっこくまいまい

D&S賞『無題』 柳木沼

NAKAGO賞『満ちて、なお足りぬもの』 サノー

ボンジュール賞『三食昼寝つき温泉宿バイトの謎』 中臣モカマタリ

嬉野地域賞『鶴と観音』久遠

優秀賞 染谷拓郎 推薦 『流れ流れて』永津わか

優秀賞上田朱音 推薦『傷に宿る美しさ』ざっこくまいまい

優秀賞 中村悠平 推薦 『ふゆう』來須凛太郎

優秀賞 大田海斗 推薦 『ひにいだかれて』ケムニマキコ

◆大賞
受賞者:依田喫茶
作品名:釉薬
ジャンル:小説

選考委員長 小原嘉元 コメント:
「完璧なものより、ほんの少し不⾃由なものの⽅が、⼈の⼿を離れにくい」という一行に強烈に惹かれました。
今の日本、地域の生き方を表していると共感しました。そして、日本の文化においてがインビジブルな価値を創造してきたように、
そこには私が恋焦がれる名宿には「わきの甘さ」があり、完成されたような宿は再訪をしないとの考え方にピッタリとハマりました。
手を離れにくいという表現はしたことがないですが、「究極の美意識の中にある”わきの甘さ”」を私は30年ほど追いかけている人生なので、あらためて私が理想とする旅館というあり方の原点に引き戻された様な、嬉しくなる作品でした。

◆副島園賞
受賞者:津田詩織
作品名:茶畑のつらなり
ジャンル:エッセイ

副島園コメント:
日常にある当たり前と人の儚さが飾る事なく素直な言葉で表現されていて違和感なく情景が見えてきました。日々、私たちが忘れがちな家族の尊さや存在を改めて認識する良い時間となりました。
人の記憶は情景、音、香りに場面を重ねて構成され、人生の物語が綴られていきます。

◆8cacao賞
受賞者:清水美雪
作品名:循環している
ジャンル:エッセイ

8cacaoコメント:
何が正解で不正解かよりも、自分がどう在りたいのかを大切にされている様な作者の表現にとても共感しました。
〝〜しなければならない“と自分を縛るのでは無く、
今の世の中の沢山の変化、自由を楽しみながら
人生を歩んで行けたらいいなと改めて思える作品でした。

◆日本香堂賞
受賞者:ざっこくまいまい
作品名:茶継ぎの金継ぎうつわ
ジャンル:小説

日本香堂コメント:
描写の美しさと無垢で透明感のある文章に惹きつけられました。
モノへの執着ではなく、思い出を心優しい情景として捉え、器への自然な感謝が溢れる。
誰もが経験する心地よさに、深く共感を覚えました。

◆D&S賞
受賞者:柳木沼
作品名:無題
ジャンル:小説

D&Sコメント:
軽快な語りと駅弁ネタで笑わせつつ、ふとした瞬間にアイデンティティの迷宮へ。放浪と自分探しをコミカルに語る文体が軽快で心地よく、電車旅をしているような感覚になりました。

◆NAKAGO賞
受賞者:サノー
作品名:満ちて、なお足りぬもの
ジャンル:エッセイ

NAKAGOコメント:
「うつわ」という存在を通じて、空であること、満ちていくこと、その両方の意味を柔らかく描き出している文章だと感じました。空っぽは欠けではなく「受け入れる準備」であるという視点は、とても前向きで豊かな響きを持っています。温泉やお茶といった身近な事象を重ねることで、自然や日常の中にある「満ち足りなさ」と「余白の大切さ」に気づかされました。読む人自身が、自分の心のうつわをそっと見つめ直すきっかけになる、静かで深い余韻のある言葉だと思いました。

◆ボンジュール賞
受賞者:中臣モカマタリ
作品名:三食昼寝つき温泉宿バイトの謎
ジャンル:小説

ボンジュールコメント:
結果が知りたい謎と経過が知りたい謎の両方を兼ね備えた愉快な作品でした。人はふと出る一言に秘めた感情が出る物、人生の罠に嵌って吉と出た主人公の生きざまセリフ小気味よかったです。年ごろの跡取りっこ続編をお待ちしています。

◆嬉野地域賞
受賞者:久遠
作品名:鶴と観音
ジャンル:小説

三服文学賞実行委員会コメント:
直接の心情描写が少ない分、湯けむりや刺青、白鶴といったモチーフが印象的で想像が広がる作品でした。艶やかでありながら、祈りのような静けさを湛えた文章に心を掴まれました。

◆優秀賞 染谷拓郎 推薦
受賞者:永津わか
作品名:流れ流れて
ジャンル:小説

コメント:一読して、「映像化できそう」とまず思いました。
少し不思議(SF)な世界観の象徴である「温泉の卵」。それを通じて、「人の手をかけないと育たない」のは温泉の卵だけじゃなく、自分自身であるということを読者に伝えてくれる。「流れること」の大切さがわかってくる大人に読んでほしい作品です。

◆優秀賞 上田朱音 推薦
受賞者:ざっこくまいまい
作品名:傷に宿る美しさ
ジャンル:小説

コメント:グラスに刻まれたひびを、壊れではなく「生の証」として見つめるまなざしがとても美しいです。
静かな描写の中に、時の重みと愛情のぬくもりがじんわりと深く伝わってきます。
金継ぎの線のように、痛みを包みながら光を宿す言葉が胸に深く残る一篇でした。

◆優秀賞 中村悠平 推薦
受賞者:來須凛太郎
作品名:ふゆう
ジャンル:エッセイ

コメント:目に見えない感覚を輪郭付け、文章のリズムに乗せる。まさに言語表現の魅力が詰まっている作品だと感じました。
ありありと描写された温泉の素晴らしさは言うまでもないですが、その”浮きを遊ぶ”ためには出発点となる地上の現実があってこそ。
普遍的な感性と作者ならではの感性のバランスの心地よさに惹かれました。

◆優秀賞 大田海斗 推薦
受賞者:ケムニマキコ
作品名:ひにいだかれて
ジャンル:短歌

コメント:一見、抽象的で難解に思いましたが、独特のリズムと音の間隔に引き込まれした。焼かれることで生まれ、また土へと還っていく「うつわ」の輪廻を、情緒的でありながら繊細な筆致で描き出している点が印象的でした。 身近にあるものを通して「生と死」「生成と消滅」について考えさせられる作品です。

◇次点作品 ※順不同
大賞や各賞すべての候補作が力作揃いでした。各賞を残念ながら逃した次点の作品・作者を発表します。

『茶の耳』依田喫茶
強烈な書き出しが心を惹きました。お茶を起点に進むストーリーと「抽出」という観点から人間の営みを振り返る味わい深い作品で、読み進めるうちに茶の描写とともに生と死、沈黙と対話が交錯していく文章に魅了されました。

『朝茶をどうぞ』未開風
お母様への沢山の愛情とともに、あたたかな日々の様子が鮮明に伝わりました。辛いことがあっても、前を向いていこうと思える読後感のある作品でした。

『父ちゃんとの朝』ふじ祐季子
全体のストーリー構成が抜群です。父と子の気恥ずかしさをごまかしてくれるお茶。登場回数は少ないながらもお茶の持つ「効果」の描写がとても上手な作品です。

『三番目のはづき』富士川三希
いづみと千鶴おばさんとの距離の縮まり方がとても自然で微笑ましいです。「高級になれない三番芽」を言い換えるやり取りはものの見方を広げてくれるようでした。

『代筆できない僕らの気持ち』紫冬湖
書道の才ある少女と、不器用ながら想いを伝えようとする少年を描いた青春小説。恋文代筆という設定に惹かれるとともに、起承転結が鮮やかで読後感も心地よく残ります。

『読む』天祐実
1文字1文字、魂を削るように書かれたかのような力強い作品でした。著者がどのような背景を背負い、どこで書いているのか、想像を掻き立てられます。

『一筆の縁』テトラン
「書く」という純粋な行為に付随する精神性や喜びなどの根源的なものを、器や香りといった要素と上手く絡めながら進んでいく構成が素晴らしかったです。

『熱雷』大井健矢
「祈りを持った真剣な言葉が、誰かを救うのなら、それは同時に、書き手自身は誰かを救えたことによって、自分の人生や過去に意味を持たせることができる。」は特に名文と感じます。文字、物体、香り…実体のあるものを生み出し、伝え、引き継いでいくということは今の社会で本当に大切なことなのではないかと思いました。

『白鶴』冬海凛
この字数制限の中での構成・展開力、また、まるで自分が主人公のように妻の幻影を目の当たりにしているかのような描写が見事。
再生=新たな未来を予感させる締めくくりに感極まりました。

『輪郭』折色雨
様々なことが目まぐるしく移り変わる現代に生きるサラリーマンのリアルな苦しみと葛藤。様々な側面を抱えなければならない私たちが、唯一心を(体も)裸になることができる温泉という場所の魅力もよく描かれており、様々な読者の共感を招くように思います。

『湯気の向こう側に』サブ
独り身になってしまっても、きっとこの家族に囲まれている限り寂しくはないのだろうと感じさせる心温まるストーリー。
食事の描写も丁寧で、食欲を誘います。

『物語の中へ』高崎佑真
非現実(しかし、現実とは切り離されておらずむしろ延長線上にあるような)の部隊の描き方に文学性を感じます。
人は物語なしでは生きていけないということを示唆するようなテーマ。湯煙のような実体のなさが心地よいです。

『夜の味、朝の名』宮司あかね
日本酒と器の描写を通じて、家族の時間と心の機微が温かく丁寧に描かれており、お猪口に映る色合いや酒の味わいに重ねられた想いが、別れの切なさと親子のぬくもりをやさしく伝えてくれる作品でした。

『永久欠番、ティーポット』郷リリー
序盤の比喩表現によってティーポットと『私』の関係性を自然と印象付け、後半での「喪失」を際立たせている部分が秀逸だと感じました。形あるものの連続性と失ったものの永続性がテーマの読後感の良い作品です。

『旅立ちの湯』陳野紀代子
温泉に浸かる細かな描写が美しい短歌作品。短歌の中での情景の切り取り方やひとつひとつの言葉のセンスが光る作品でした。読んでいるだけで温泉に行っているような清々しい気持ちになりました。

『現の綺羅星』板倉雷夏
設定、文章、表現、どこにおいても目が離せず、不思議な読後感を与えてくれる作品でした。軽妙さと深みを併せ持つ独自の世界観に引き込まれました。

『許しのお茶』鈴山結子
母との確執と赦しの葛藤を、一杯のお茶に込めて描き出された作品。過去の痛みと、わずかな和解の予感が余韻として胸に残りました。

『伝えたい「ことば」と「もの」』小野達郎
それぞれ別の職人だった二人の祖父や叔父との交流。「じっくり時間をかけて価値ある物を創る」ことの意味を改めて考えさせられる作品でした。

『本への思い』香満ちる
短い中にも、本を読み進める時間の流れと読み終わってしまうという寂しさが凝縮されていました。本への愛情が伝わってきます。

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和多屋別荘 創業祭 75祭